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石畳の道のわきに立ち並ぶ、法律事務所やパン屋などの建物。それらが黄昏れの赤い夕日に照らされ、まるでセピアの古いフィルムの一画を切り出したかのように男の目には映った。
モダンで洗礼されたこの街道の美観を損ねない容貌のその男は、全身を黒いコートで包み、その間から黄色のネクタイをかいま見せ、よく磨かれた黒い革靴で街全体に足音を響かせていた。
昼間の賑やかさが失せた夕暮れの街道にはこの男しかいない。時折すれ違うご婦人や少年、白いリボンをつけた美女なども、これからくる闇に吸い込まれたかのようにいなくなる。
今もまた、最近よく聞く『通り魔』の警戒のため巡回中の警察官が、男とすれ違い消えた。
男は美観を損ねずまた歩く。
夕日で赤く照らされた街を、ご婦人や少年や美女や警察官の血で赤く染められたナイフを握って。
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