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がっちり腕を回し、いくら暴れてももう振り払うことはできない。
「ゲームセットだ、緋奈」
「……ダメだよ、篠。あたしが戦意喪失するまで、ちゃんと抱きしめなきゃ」
「もう喪失してるじゃねえか」
「いいや、まだ諦められない。あたしの戦争は、そう簡単に終わらない。終わらせられない……だから、もう少しだけ、このままで」
「……そうか。なら、そうするしかないな」
「まさか篠が貧乳好きだったとはなー。最大の敗因はそれだ、うん」
「第一声がよりによってそれかよ」
っていうかあれはその場のノリで言っただけであって、俺は胸の大きさで判断したりしない。
たまたま撫子がジャストミートだっただけだ。
「いやホント、油断したぜ」
「……そのことなんだけど、お前、ホントに油断してたのか?」
気になっていた。背負い投げをされたとき、やけに痛くなかったこと。あっさりと俺に羽交い締めにされたこと。
いや、そもそもなぜ緋奈はわざわざ柔道の技を使って、しかも寝技に持ち込んだのか。どれも緋奈の土俵ではなかったはずだ。
もしかして、緋奈は初めからわざと負けるつもりで……
「あん? 油断してたに決まってんだろ。そうでなきゃ、あたしが負けるはずがねー」
「だったら何で得意でもない柔道の技なんか使ったんだよ。もし喧嘩のスタイルを続けてたら、俺に勝ち目はなかった」
「それは篠が執拗にあたしの体を触ろうとしたからだろ? ったく、ケダモノみたいな目ぇしてたぜ」
「俺がヤバいベクトルの変態みたいじゃねえか。人聞きの悪い」
緋奈はいつも通りだった。わざと負けた、なんてそんな殊勝な女には見えないけど、そう見せないように頑張っているようにも見えた。
「ま、何にせよ、あたしは負けたわけだし、もう篠を奪い取るなんて言わねーよ。だけど、諦める訳じゃねーぞ? 惑わす、寝取る、絡め取る」
「怖えよ!」
「おいおい、恋は怖いんだぜ? ま、一番怖いのは、恋する乙女なんだけどな。恋が戦争なら、恋する乙女は、謂わば戦士だ」
「お前に限っては狂戦士だけどな」
「なんだとう!」
さっきまでの重苦しい空気が嘘みたいだ。これでやっといつも通りだ。
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