第五章 義姉と義妹と鉄拳と

35/38
4719人が本棚に入れています
本棚に追加
/325ページ
 世界が回転し、背中から打ち付けられる。呼吸が止まり、肺から血の匂いがこみ上げてきた。 「……おま、え、柔道、もやってた、のか」 「何言ってんだよ。篠だって授業でやらなかったか?」  つまり、授業を受ければあれだけ見事に投げられると、そういうことか。無理に決まってんだろ。  さすが、格闘センスの塊みたいなやつだ。 「どうだ? 負けを認めるか?」 「得意げにしてるとこ悪いが、パンツが丸見えだ」 「いいよ別に、パンツじゃなくてスパッツだから」 「いや、むしろそれが良いという人もいるかも」  そこで不意打ち気味に立ち上がって再び緋奈に掴みかかる。 「甘いっ!」  今度は背負い投げだった。  なんだか、空がやけに遠く感じるな。  二度目は不思議とあまり痛みを感じなかった。投げられると分かっていたからか? 「おいおい篠、そんなにあたしのスカートの中が見たいのか? わざと投げられてまで」  嫌みか、この野郎。 「バレちまったか。この角度だとよく見えるぞ」  悔しいから、そう言い返してみた。 「そんな事しなくても、篠があたしの物になってくれれば、胸だって触らせてやるのに」 「バカめ。それじゃあつまらないんだよ! 無理矢理見て、触るのが男のロマン!」  あ、ここまで言ったらただの変態だな。 「そ。そりゃ残念」 「油断っ!」  三度目の正直!  ――今度は大内刈りだった。いや、違う。倒した勢いそのままに、緋奈が上にのしかかってきた。俺がやろうとしたことをやり返された! 「もう、諦めなって。あたしが言うのもなんだけど、別にあたし悪くないだろ? 篠だって嫌いじゃないんだろ?」  その時、緋奈の目がバーサーカーの目から、恋する乙女の目になった。 「……まあ、そうだけど」 「だったら良いじゃん。あたし尽くすタイプだぜ?」  さりげなく胸を押しつけてきた。こいつ、お色気担当のポジションでも狙ってんのか? 「……そうだけど、やっぱダメだ」  緋奈は間違いなく油断していた。そうでなければ、素早く動いて上下を入れ替えるなんて真似、緋奈が許すはずがない。 「しまっ……!」 「俺はなぁ、小さい胸の方が好きなんだよ!」  今度こそ羽交い締めにすることに成功した。
/325ページ

最初のコメントを投稿しよう!