4719人が本棚に入れています
本棚に追加
/325ページ
「あたしは諦めない。あんな貧乳に負けてなるものか!」
「あんな、ってお前、誰か分かってんのかよ?」
「あ? 撫子だろ?」
何でそんな当然のように俺の好きな人を知っているんだ?
「俺ってそんなに分かりやすいのか? あと、撫子の前では貧乳とか言ってやるなよ。気にしてるらしいから」
ちなみに一弥情報だ。どうやって仕入れたのかは怖くて聞けない。
そもそも、あいつは全体的に痩せてるから、別に胸が無くても貧乳が際だつことはないのだが。
「そりゃー分かるよ。撫子のやつも、あたしが篠のことを好きだってことはずっと知ってたっぽいけど」
「そうなのか?」
それは目から鱗だ。
「おいおい、あたしがあんなに撫子に避けられてた理由なんて、それぐらいしかねーだろ。そのくせ、あたしたちが篠と遊ぶ度にあいつもくっついてきてたからなー」
「? 言ってる意味がよく……」
「あーあー分かんなくていいから。ホント、難儀だなーお前たちは」
緋奈が知ってることを俺が知らないというのは、めちゃくちゃ敗北感だった。
「そうだ、これはもういらねーな」
緋奈は、おもむろに、
“髪を解いた”。
彼女のこれまでの髪型を、俺は敢えて描写しなかったが、さっきの大立ち回りから容易に推測できるだろう。
彼女は、緋奈は肩甲骨まである髪を後ろで結んでいた。そう、“ポニーテール”だ。
撫子のなりきりの一つは、彼女が元となっていたのだ。
つまり、撫子の中で『緋奈』と『ポニーテール』と『喧嘩が強い』は同列に結ばれており、緋奈と言えばポニーテールというほどだった。
その緋奈が、ポニーテールを解いたのだ。
「おい、緋奈……?」
「あたしは、生まれ変わるのさ」
何だ? つまり、失恋したから髪型を変えるとか、そういう類の話なのか?
と思いきや、緋奈は新しいヘアゴムを取り出すと、また髪を結い始めた。
どうやら、ヘアゴムを変えただけらしい。いったい何の意味が……
「……っておい、それってまさか……!?」
「そのまさかだ。四年間、ずっと肌身離さず持ってた。けど、もうこれに縋ってばかりはいられないからな」
外した方のヘアゴムは、四年前、俺が引っ越してしまう緋奈にプレゼントした物だった。
最初のコメントを投稿しよう!