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消えた願い
この世界には人と魔物が存在していた
私は人
私が愛した人は魔物
決して祝福されることはなかった
魔物は悪とされていたから
私の愛した人は優しく
とてももろい人だった
ずっと側にいてあげたかった
たとえお金がなくとも
誰にも認められなくとも
一緒にいることに意味があった
こんなにも愛せる人に出会えた
彼は
私の生きている意味そのものだった
けれども彼は
私のことをひどく気にした
不自由な思いをしているのではないか
本当は後悔しているのではないかと
そんなことなど一度も私は思わなかった
願うなら
その願いがかなうのなら
私は彼と同じ魔物になって
長いときを一緒に生きたかった
でも
私は人間
流行病におかされた
この命はもう長くはない
私は死を覚悟した
けれども彼には病気のことを告げなかった
彼を悲しませたくなかったから
いっそ私の命が尽きる前に殺してしまおうか
そう考えたことさえあった
だけど
できなかった
彼には生きてほしかった
私が病にかかってしばらくして
彼は私の側からいなくなった
これでよかったのかもしれない
彼を殺さず
彼を悲しませることなく
逝けるのだから
裏切られたとは思わなかった
ただ彼には
今度こそ彼に見合う
幸せを手に入れてほしいと
ただそれだけを
祈った
彼女の死んだ日彼は魔王となった
彼は彼女を迎えに行った
だが彼女は二度と彼に笑いかけることはなかった
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