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自分への偽り
千賀代が和広の前に姿を現わさなくなって
5年が過ぎ、和広は中学2年生になっていた。ある日、突然母が言った。
『カズ、ちぃちゃんのところにお見舞いに行くけど、一緒に来る?』
急な話で一瞬びっくりしたが、少し間をおいて、和広は
『うん。行くよ』
母の車の助手席に乗り込み、走る事小一時間―。
病院に着く。
受付を済ませ、病室へと向かった。
ドアを開けるとベッドの上には、パジャマ姿の千賀代が居た。
視線をふっと横にやると、知らない男が仲良さげに千賀代と喋っている。
男の名前は桐谷聖【きりや さとし】。
少しクールな感じの青年だ。
千賀代にお見舞いのケーキを渡すと、
『ありがとう。カズ。大きくなったね。ごめんね ずっと会いに行けなくて。』
千賀代の表情が曇る。
『ちぃちゃん…、身体はだいぶいいの?』
『うん。ありがとう。大丈夫だから』
『そぉ… 』
和広はそれ以上喋らなかった。
いや、喋れなかった…と言う方が正しかった。
それ以上の言葉を千賀代にかける事ができなかった。
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