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入った瞬間のこの喧騒に退出したくなったが、入室したイェルに読書をやめた少女が、
自分の隣をポンポンと叩きながらこちらをその紅の瞳でじっと見てくるので、
それに従い黙って少女の隣に腰かけた。
隣に座ったことにより、うんうんと満足そうに頷く彼女にこの現状を問いかけた。
「なぁ……あれ、何?」
「……?」
どうやら彼女も知らないらしい。
小首を傾げた時に、その細い絹糸のような銀色の髪が動きに合わせて揺れた。
「名前、教えて……?」
「俺?」
こくりと頷く。その紅の瞳から目を離すことは憚れた。
「イェル。イェル=ハーティス」
イェル、イェルと忘れないように彼女は小声で何度も呟いた。
「ティア」
「ん?」
「私の名前……。ティア」
「ティアか、よろしく」
うん、と頷いてティアは目の前の喧騒を無視して、また本の世界に戻って行った。
いい加減早く先に話を進めないといけない。
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