第三章

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  「またそんな恰好して……。表が騒がしいけど、誰か来たの?  イェル?」 「なんだ? ミスト姉、呼んだか?」 その声に振り向くとイェルが寝間着のまま、後ろに立ちこちらを見ている。 「……そういうことにしたい訳ね。分かったわ」 「なんのことだか」 イェルは自身が言った言葉通り、涼しい顔で椅子に座った。 「そうね。……それで、こんな時間にお客様?」 また黒に向きなおり、再び問うた。 「“無涯”に、お客様」 己の異名を耳にし、その端正な顔は僅かに曇った。 それは注意していなければ分からないほど一瞬で、 しかし彼女にとっては珍しく弱い顔をしていた。 「どうするんだ? 帰ってもらうか?」 「……いいえ、イェルじゃなくて、んー何て呼べばいいかな?」 気遣う言葉をかけてくれたイェルに首を振って、黒の方に顔を向けた。  
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