お殿さまとわたし

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     泥団子宇喜多秀家の他は、例のおっさん武者が進藤三左衛門。以下、黒田勘十郎・森田小伝治・虫明(むしあげ)九平次・蘆田作内・本郷義則・山田半助の総勢八名である。  彼らと出会った中山郷の粕川(かすかわ)沿いから、一刻半(約3時間)ほどかかって、白樫(しらかし)村にある五右衛門宅へ辿り着いた。  百姓渡世とはいえ、もとは郷士で、そこそこ由緒のある家である。家屋敷は割合に広い。  ただし、先祖から受け継いだのは土地と名だけであるので、勝手元は火の車。直裁に言えば素寒貧(すかんぴん)である。  ない米かき寄せ湯漬けを振る舞い、タライ並べて行水させ、奥座敷に布団をのべ雑魚寝させた。  米びつは、あっという間に空である。  宇喜多一行を世話していくには、いったいいくらあったらいいのか。五右衛門の心は、早くも後悔の念で溢れんばかりだった。  唯一の救いは、女房のおかねが、秀家の高貴な血筋に感動し、喜んで一行を迎え入れたことだ。 「ふむ。で、ここはどこじゃ」  地炉の間で横座に陣取った秀家は、殿様らしく尊大に尋ねた。囲炉裏にくべた薪が気になるらしく、しきりに火箸で突っつきまわしている。  失神による強制入眠であったとはいえ、道中ぐっすり眠りこけていたので、秀家は元気いっぱいだ。顔を洗い、月代をきれいに剃った姿は、なかなかどうして素晴らしい男前である。間に合わせに貸した五右衛門の粗衣が、別物のように輝いて見えた。    
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