お殿さまとわたし

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    「は。白樫村にございます」  飯さえ食えば元気横溢。おっさん武者の進藤三左衛門が威儀を正して答えた。  こっちは、肌を磨こうが髷(まげ)を結おうがむさいままだ。ただ、汗臭さが消えたので、比較的マシではあった。  髭モジャのごつい顎を、五右衛門に向けてしゃくる。 「わっぱ、詳しくお聞かせせよ」 「助けてもらったくせに態度でかくない?」 「なんだと!」  掴みかかろうとした三左衛門を、秀家が火箸を振って制した。 「わしが問おう。うぬは何という名じゃ」 「矢野五右衛門だけど」 「恐れ多いぞ! 頭を下げぬか!」 「ちと黙れ、三左」  秀家は、再び三左衛門を止めた。 「こたびは、そちに面倒をかけるが、よろしゅう頼む」  秀家は低頭した。  頭を下げてなお、凛とした威厳が備わっている。さすがは殿様だ。 「殿! このような下郎に頭を下げてはなりませぬ!」 「よいのじゃ。わしらが生きておるのも、この者のおかげ」  蹴とばしたおかげで若干記憶が飛んだ模様である。  三左衛門が真相を暴露する前に、五右衛門は慌てて口を入れる。 「いいよいいよ。女房も娘も、お殿さまのこと気に入っちゃったみたいだし」  障子の影からこちらを窺っている娘を、五右衛門は引っ張り出した。    
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