お殿さまとわたし

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     娘のおふさは芳紀まさに十六歳。豊かな黒髪に縁取られた下膨れの顔と、切れ長の目、おちょぼ口が愛らしい。  秀家の手がうまくつけば、一家そろって大名の親戚になれる可能性がある。ここは、おふさの美貌を訴える好機だ。  五右衛門は、秀家の反応をうかがった。  鼻くそをほじっている。  まったく興味なげで拍子抜けだが、秀家は良家のお殿さま。美人など見慣れているだろうし、好みであったとしても下民のようにガツガツはしないのであろう。  これから始まる陰所生活の侘びしさと徒然のうちに、機会もめぐってくるはずだ。  がんばれよ、と五右衛門はおふさのでかい尻を叩いて、勝手へ酒をとりにやらせた。 「しかし、困りましたな」  三左衛門がおふさのケツを目で追いながら溜息をついた。  お殿さまは外したが、おっさんは射止めたらしい。ここで主張しておくが、こんな中年男の嫁にやるくらいなら、馬糞についたフンコロガシにでもやったほうが数千倍マシである。  五右衛門の心も知らず、無邪気に炉を突っつきながら秀家は首を傾げた。 「何が困ったのじゃ」 「ここ矢野家があるのは、幸いにして村のはずれ。しかしこう大人数で隠れていては、見つかるのも時間の問題でしょうぞ」    
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