お殿さまとわたし

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    「……うむ」  秀家は腕を組んで唸った。  滑らかな眉間が障子ごしの日に照り映えて、五右衛門ですら惚れ惚れする男っぷりだ。 「追い出すようで心苦しゅうはあるが、何人かは京へやらねばなるまい。母上とお豪に無事を伝えねばならぬしのう」  お豪というのは、故・前田利家の四女で、秀家の妻である。 「では、二、三日休ませた後、発たせましょうぞ。ここに残るのは拙者と……そうですな、黒田勘十郎がよいでしょう」 「うむ」  話はまとまった。  三左衛門のおっさんが残るのは非常に迷惑だが、三人くらいなら大して目立つこともない。何とか隠し通せるだろう。  その上、さらなる案が五右衛門にはあった。 「あのさ」 「なんだ」  突き刺すようなおっさんの眼光は無視して、五右衛門は秀家に向き直った。 「うちの裏に岩穴があるんだけど。そこに隠れるのはどう?」 「きさま! 我が殿へ泥の上で寝ろと申すのか!」 「三左。待てというに」  秀家が鋭く咎めた。凛々しい眦(まなじり)をキッと決する。 「わしは、日が落ちたらそこへ移る。三左と黒田は、下僕の振りをすれば多少自由に出歩けるであろう。屋敷へおいてやってはくれぬか」  また声をあげかけた三左衛門へ、秀家は首を横に振ってみせた。 「わしが決めたことじゃ。そちらは、ここで追っ手に備えよ。矢野家のたずきを助けることも忘れてはならぬ」 「……御意」  三左衛門は甚だ不満そうであるが、とりあえず決着である。 「ま、気楽にいってよ。岩窟っつっても家の中より快適なくらいだからさ」    
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