お殿さまとわたし

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     勝手から戻ったおふさが秀家に酌をする。一気に飲み干すと、頬がパッと薄紅を帯びた。  秀家は二十八の男盛り。若い肌が桜のようだった。  それを見たおふさも、目を伏せて顔を赤らめる。  好機逸すべからず。今こそ二人きりにして、懇ろになってもらわねばならない。  五右衛門は腰を浮かせた。 「あ、おれ、ちょっと用事おもいだしちゃったから、出かけてくるね。んで、おっさんは今から外。九蔵が裏で薪割ってるから」 「なんだと?」 「下僕のふりするんでしょ。練習練習」 「ふざけるな!」 「三左」  秀家の毅然たる声に撃たれ、三左衛門はかしこまった。 「はっ」 「手伝うてくるのじゃ。恩義は、できる限り返さねばならぬ」 「……承知」  五右衛門をものすごい顔で睨みながら、おっさんは土間へ下り屋敷裏へ向かった。 「んじゃ、おれも行ってくるね。おふさ、お殿さまにちゃんとお酌しなきゃだめだよ」 「はい、父さま」  消え入りそうな声で返事をしたおふさのケツをもうひと叩きして激励し、五右衛門も板間を後にした。  ここは、おふさの手練手管と、秀家の生殖本能に期待するのみである。    
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