お役人とわたし

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     宇喜多一行の衰弱は思ったより激しかった。全員がようよう歩けるようになったのは五日後である。  森田・虫明(むしあげ)・蘆田・本郷・山田の五人が、行商や修験者に化けて京へ発ったのは、それからさらに五日後であった。  行商はともかく、修験者の装束を揃えるのに時間がかかった。平凡な農家に、兜巾(ときん)やら篠懸(すずかけ)やらがあるわけがない。  それらを仕入れた出費にガックリきている五右衛門へ追い討ちをかけたのは、屋敷裏の洞へ移った秀家である。  十日前のしおらしさはどこへやら、すっかり地顔をさらしてワガママお殿さまと化していた。 「黒田。わしは猿ひきが見たいのじゃ。捕まえてまいれ」 「ご、ご勘弁を……。そこいらの猿を捕まえてきたところで、猿回しはできませぬ」 「ならば、そちが舞うてみせよ」  侍のくせにえらく気の弱い黒田は、日に三度は秀家に泣かされて帰ってくる。  一方の三左衛門は、矢野家の余業である山仕事が気に入ったらしく、裏の山へ入っては木を切り倒してばかりいる。  九蔵は野良仕事。女房のおかねは、にわかに増えた洗濯と勝手仕事に大わらわだ。  自然、この手の面倒ごとは五右衛門に回ってくる。    
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