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「ほら、泣かないでよ黒田ちゃん。お殿さまが駄駄をこねるのは、いつものことでしょ」
「も、もう私は嫌でございます! 昨日はドジョウすくい、一昨日はひょっとこ踊り、今日にいたっては猿の真似まで……。私は、武士として情けのうございます」
百姓にとりすがって泣く時点で武士として如何なものかと思わなくもないが、それにしても秀家のワガママは度を越している。
そういえば、いつぞや小耳に挟んだ巷談で、秀家が家臣を軒並み伴天連(ばてれん)に改宗させようとしてお家騒動になった、というのがあった。
当時は、そんな無茶な殿様があるかと話半分に聞いたものだ。
だが、今ならば分かる。あの秀家ならばやりかねない。
胃の痛みを訴えだした黒田に肩を貸し、屋敷の西にある壺屋へ連れて行く。
もともとは九蔵が寝起きに使っていた小屋であるが、いまは下男に化けさせた黒田と三左衛門もいっしょに住まわせている。むさい大男に挟まれた窮屈な暮らしも、黒田を追い詰める要因になっているのかもしれないが、こればっかりはどうしようもない。
黄茶ばんだ藁布団へ黒田を寝かせておいて、五右衛門は、秀家のいる岩窟へ足を向けた。
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