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五右衛門が岩窟に入ると、秀家はおふさを横へ控えさせ、小指で耳くそをほじっていた。
「お殿さま。あんまり黒田ちゃんをいじめたら、かわいそうだよ」
「ここはつまらぬのじゃ。黒田の泣き顔でも拝んでおらねば、無聊(ぶりょう)で死んでしまうわ」
「うちのおふさがついてるんだからさ。そっちに構ったらいいじゃない」
気が利くうえに辛抱強いおふさならば、秀家の注文に応えられるであろう。そしてそんな健気なおふさに心を開く秀家……というのを五右衛門は期待している。
しかし現実には、今日に至るまで、秀家はおふさの手すら握っていない。
隣のおふさをチラと見やってから、秀家は五右衛門へ視線を戻した。
「わしは、年若いおなごを困らせるのは嫌いじゃ。こきつかうならば、もちっと年増がよい」
秀家くらい育ちがよいと、こういう余裕が出てくるのかもしれない。
女なら嬰児(えいじ)から骨壷までどんと来い、の五右衛門は、自らを省みた。しかし、反省はしても改めないのが五右衛門である。
「おれとお殿さまの仲じゃない。気つかわないでよ。何だったら、今からちょこっと外でてようか?」
おふさが、真っ赤になって顔を伏せる。
秀家は興味なげに手を振った。
「娘御は勝手へ戻してかまわぬ」
「それだと、お殿さまの世話をする人がいなくなっちゃうじゃない」
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