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すわ、仲間がいたか。
おまけに援軍は、いかにも強そうな中年武者ときた。
泥団子男にもう一蹴りくれて昏絶させ、五右衛門は逃げ出した。
強者に対しては逃げ一辺倒なのもまた五右衛門である。
しかし、中年武者の足は恐ろしく速かった。追っついてきたかと思うと、あっという間に拳骨で殴り倒された。
完敗である。
五右衛門の襟首を巨大な手で鷲掴んで捕拿(ほだ)し、中年男は、泥団子の安否を確認しに向かった。
「殿、ご無事でありましょうや!」
泥団子は白目を剥いてぶっ倒れている。
中年武者は、慌てて泥団子の首筋に指を当て、脈を確かめた。ほっと息をついたかと思うと、恐ろしい顔で五右衛門を睨まえた。
「きさま! どなたを足蹴にしたか分かっておるのか!」
五右衛門の顔面が地に叩きつけられた。
「ぐえっ」
おっさん武者は、鼻血の噴き出した五右衛門をひっくり返し、衣紋(えもん)を掴む。泥で汚れたいかつい顔が近づくと、その荒い鼻息に、五右衛門の口髭がそよそよした。
「よう聞けよ。きさまが蹴りをくれたこのお方は、備前岡山五十七万石・宇喜多中納言さまにあらせられるぞ」
宇喜多中納言秀家といえば、五大老として徳川家康や毛利輝元・上杉景勝・前田利長と肩を並べる大大名だ。こたび関ヶ原で起きた戦では、敗れた西軍方の主力であった。故・豊臣秀吉の猶子(ゆうし)にして、同じく故人・前五大老前田利家の娘婿でもある。とんでもない大物だ。
五右衛門は乾いた蝦蟇(ひき)みたいになった。
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