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「え。なに? おじさん誰なの?」
「きさま、このわっぱの一味であろう」
「旦那さまは、わっぱってゆーか、おっちゃんじゃない? どっちかってゆーと」
道理。五右衛門は数え三十八である。
「どっちでもよいわ!」
「おじさんがどっちでもいいってゆーなら、それでいいけど」
九蔵のとんちきで場が緩んだ隙に逃げようと狙ったが、おっさんはそう甘くなかった。匍匐前進する五右衛門の背を、巨大な武者草鞋が踏みつける。
「ぐえっ」
「とりあえず、このわっぱにもきさまにも、死んでもらう」
「えっなんで?」
「地獄で主に訊くがよい」
「ねー旦那さま。なんで?」
「地獄で訊けと言うておろうが!」
焦れたおっさん武者は、やにわに九蔵へ斬りつけた。が、頑健さだけがとり得の九蔵である。ろくすっぽ飯も食っていない落人に、遅れをとることはない。
軽やかな足捌きで一撃目を避け、二太刀目を白刃取り。ひるんだおっさんから、みごと刀をもぎ取った。
「よっしゃ九蔵!」
相手が弱いとなれば五右衛門の出番である。
おっさんの後ろ頭に飛び蹴りをくらわせ、倒れたところで腕を後ろに捩じ上げた。すかさず荒縄で捕縛する。
「あっ、いくらなんでも可哀相だよー」
「あほ! おまえ、今こいつに殺されかけたんだぞ!」
「でも、この人ごはん食べてないみたいだし」
「そういうヤツから身ぐるみ剥ぐのが落武者狩りっつうんだよ!」
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