叙情詩

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朝からの快晴は秋風をボクらに運び優しく包み込む様だった。 ミクは幾つかの店を周り服を買い、本屋で雑誌を買い、最後にシルバーアクセサリーの店に寄った。 「安いのでいいから、何か買わない?」 「あぁ、そうだね。」 ボクは結婚指輪すらしない男なのに…、なぜかペアリングを見ていた。 ミクは店員に幾つも見せて貰いながら選んでいた。 ボクは何の気なしに見ている様に見せて内心はかわいいなとか考えていた。 「コレ!ねぇ、コレなんてよくない?ねぇ、コレにしようよ。」 聞く前から決まってるんだね。 「あぁ、良いね。んじゃあ、ボクにも合わせて…」 結局、リングと、それを首からかけるためのチェーンを買った。 お互い、指にはつけられない。 それでも、服の中なら…。っと思ったのだ。 買い物を終えて車に乗ると、16時を少し過ぎていた。 「そろそろ、帰らないとね。ミク、楽しかった?」 「うん。二人で小倉で買い物したかったから…楽しかったよ。ゴメンね、ワガママ言って…。」 「いいよ。ボクも楽しかったし…。二人のモノも買えたからね。」 「うん。大事にするね。」 お互いの立場が今と違えば、どれだけ良かっただろう。 普通の恋人同士の会話であればあるほどに、自分達の不自然さが際立ってくる。 それでも、ミクが居れば良いと自分に言い聞かせていた。 車が家の近くにつく頃、不自然にミクが会話を止めていた。 優しかった陽の光は美しい夕暮れで車の中を赤く染めていた。 「ミク、夕焼けがすごいよ、今日は良い天気だったか・・・見てごらんよ。視線が吸い込まれそうだよ。」 「うん……。」 「どうしたの?なんか急に元気ないね。」 「うん………、あのね………。」 車はいつも別れるスーパーに着いた。 「ん?何?どうしたの?」 「うん……、生理がこないの。多分、妊娠してる…………。」 夕暮れの優しさや美しさを忘れさせるには十分な小さな声でミクは言った。
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