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この案内人は、どこでもそうなのだが、客の話を聞いたとしても決してどこにも漏らしてはいけない。
ただ単に規則で決まっているだけではなく、監視されている。
紙にメモをとってもすぐに管理システムに報告が行くのである。
どんな仕組みになっているのかは誰にもわからない。
実際に、管理システムを甘く見て、こっそりメモをとっていた案内人の行方がわからなくなったこともある。
そういうニュースはどこにも流れることはないが、確実であることは間違いない。
山下はパフッともう一度ふかふかの座り心地のいい椅子に倒れこみ、ため息をついた。
「どうした?」
小山が話しかける。
「俺達はいったい何の為に半日もここで過ごしたのかなぁって。
仕事じゃないけど、ここに行けって言われて来たけど…。
バーチャルの世界の体験だって、此処に着いてから説明されて面白そうだからみんなでマシーンに入ったけどさ…。」
「そうだよなぁ。何の為だったんだろう。」と小山。
少しずつ頭がはっきりしてきた手越とシゲも2人の話に耳を傾け始めた。
「社長がここに行けって言ったんだろうね。そうでなきゃ、だれもこんなとこに行けって言わないもんなぁ…。」
と小山が言うと、
「おかげで俺は…なんか…ややこしいことになったみたいだけど。」
と加藤が言った。
「シゲ、やっと少しずつ現実にもどってきたな。」
と、小山が話す。
「うん。やっとな。でも…まだかなりひきづってる。なんか…手越のことが好きっぽい、俺(笑)。」
笑い事ではないけれど、そうでもしないと自分には重過ぎるような気がしていた。
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