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山下に促されて、それぞれ、バーチャルマシーンから降りた。
ただ、手越はどういうわけか、足元がおぼつかない。
よほど深く入り込んでいたと思われる。
ふらつく手越を隣にいた加藤が支える。
「大丈夫か?手越。フラフラじゃん。」
「ちょっと…うまく歩けない。」
「じゃあ、俺がおぶってやろうか?」
と加藤が言うと、
「大丈夫?つぶれない?シゲ…」
「大丈夫だよ…、たぶん。」
「俺、怪我すんの嫌だ!」
そんな2人のやり取りを見ていた小山が、
「俺が抱っこしてやろうか?」
と言った。
「ホント?」
半日しか経っていないのに、バーチャルのせいで、数ヶ月ぶりに会うような感覚になる手越。
そんな手越を小山がヒョイッと…いわゆるお姫様抱っこで持ち上げた。
落ちないように、小山の首に腕を回してつかまった。
「慶ちゃん…。なんかすごく久しぶりな感じだね。ずっと何ヶ月も慶ちゃんに触れていなかったような気がするよ。つい昨日まで一緒だったのに…。」
耳元に、心地よく響く手越の声。小山はひどく懐かしい思いにとらわれる。
そんな小山は手越を抱えて歩きながら、
「不思議だな。昔の恋人に再会したような…。おまえとはまだ別れてないけどさ…。」
と言った。
「うん。分かるよ、慶ちゃん。嫌いになって別れたんじゃない恋人に再会した感覚でしょ?」
「そうだよ。」
その様子を複雑な思いで加藤は見つめていた。
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