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「ああああ、しかしなんて、なんて美しい銀毛なんだろう。どんな獣もどんな科学者も生み出せなかったその色彩、その光沢。僕が愚かな人間だったら、迷わず君を狩っているだろう、ね」
興奮した口調でゆっくりと近付いてくる様は、完全な変態だった。
やがて魔法使いは私の目の前に立ち、黙って全身を嘗めるように眺め始める。
……脳が小さく、震えた。
「嫉妬までしてしまう。たかが、たかが銀色如きに」
不意に左腕を噛まれた。
甘噛みなんかじゃなく、血液が溢れるほど、強く。
「…………」
まただ。
鋭い牙が左腕に食い込む度に、どんどんぐしゃぐしゃぐりんぐりん脳が揺さぶられていく。
「…………」
これは、怒り。
これは、恐怖。
これは、痛み。
これは……喜び。
潰してやろうと動かした右手が、勝手に魔法使いの頭を撫でていた。
これが他人。
久しぶりに接する、久しぶりに触れる、久しぶりに感情が動いた、自分以外の生き物。
「奇妙な味。変な味。噛みつくの、もうやめよ」
久しぶりの抱擁があまりにも心地良くて……次の次の満月まで、私は魔法使いを離さなかった。
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