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打ちひしがれた二人の男女がサービスエリアの群れなす車の間を歩いていると、目の前のベンツから彼らを出迎えるように加藤夫妻が降りてきた。
勿論菅井には彼らに言う言葉もないし、かけてもらうべき言葉もなかったので、妻を抱えたまま無言で通り過ぎようとしていた。
唐突に加藤が言い放つ。
「少しは自分のことを考えたらどうなんだ!」
菅井は歩き続け、加藤夫妻が後をついてくるのもそのままに、自分の車につくと同時に黙って妻を押し込んだ。
「菅井さんの騒動で時間を二十分も無駄にしました……先を急がないと……」
「どうせ妻からもらった金に義理立てしているだけだろう……返せなんて言わないから、君らは好きにしろ」
「ま………待ってください菅井さん!」
加藤の後ろから彼の妻が前に出た。
「さっきのこと、本当にごめんなさい………でも私たち菅井さんの言葉を信じます。あれから三人で話し合ったんです、それで、余程のことがないと………あんな風に人前で頭を下げる人はいないだろうって………正直、わたし菅井さんとは数えるほどしか顔を合わせたことがありませんけど、でも私……あなたがここまで真剣になる理由を無視しちゃいけないと思うんです」
そういう加藤の妻の瞳にも、うっすらと涙がにじんでいた。
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