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六人の男たちが、最初の犠牲になった。
七人目の男である菅井だけはなんとか車に乗って逃げることができたが、それでも安心はできなかった。それはまるで彼の後を追うようにして深い山間を流れ、うねり、あらゆるものを飲み込みつつあったからだ。
峠の国道はひどいスラロームの連続で、カーブを切るたびに彼の車はタイヤの悲鳴をあげた。ブレーキはすでに熱を持ち、力いっぱい踏み付けてもあまりきかなくなっていた。
それでも彼はスピードを落とすことなく狂ったように峠を駆け抜ける。
気を抜いている余裕などなかった。
恐怖にかられた視線がバックミラーに移るたび、それは執拗に彼の後を追ってきていることが見えたからである………。
†
それが何なのか、彼らはまったく理解できなかった。というより最初それを見たとき、山火事の煙りにしては妙だくらいにしか思わなかった。
そして互いに顔を見つめ、首をかしげては山肌をすべるように流れる【黒い霧】をながめた。彼らは口々に、アレはなんだと言葉を交わすばかりだった。
それは異様なほど黒く、まるで火災の黒煙そっくりであるにかかわらず空に立ち昇ることなく、徐々と斜面を降りてくる。
夏至を迎えようとする陽光に育てられ、目に染みる緑をたたえた木々を頭から飲み込みながら迫るそれは、例えることさえ困難な存在だった。
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