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「畜生、もうだめだ、あんたも逃げろ!」
菅井は再び警官に向かって叫んだ。「どかない気なら……」
「ありゃなんだ?」
そうつぶやいた警官の視線は明らかに事故車ではなく、田んぼの奥にある山の稜線に向けて注がれていた。
見るまでもない。
それは猛然と彼らに迫ってきていた。
それはさらに巨大化し、まるで黒い津波が山にぶち当たって斜面を乗り越えるように田んぼへなだれ込んできた。
菅井は意を決してアクセルを踏み付けると、車をパトカーのトランクスペースにぶち当て前進する。警官は目玉がこぼれんばかりに仰天し、身体を凍りつかせた。
菅井が叫ぶ。
「乗れ!」
だが警官は立ったまま……
「死にたいのか、はやく乗れ!」
警官はハッと我に返り彼の車に転げ込む。そして車はパトカーを弾き飛ばして急発進し、メーターはぐんぐんと上昇を続けた。
「家が……」
「なに?」
「家が潰れた!」
後ろを向いていた警官の目に、あっという間に押し潰されて飲み込まれた民家が見えていた。そして次に彼が見たものは、半分潰れたトラックの最期だった。
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