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この光景は菅井もバックミラーで見ていた。そして黒い霧が何を起こしているのか、やっと正確に掴むことになるのである。
田んぼから押し寄せる黒い霧がトラックをつつんだ瞬間、てっきりばらばらに潰されると思っていたのだが、実際にはそうではなかったのだ。
潰れるには潰れるのだが物理的に、というよりはまるで【CG映像が平たく押し潰される】ような現象だった。
まるで現実とは思えない不気味な現象、崩壊もなく、爆発もない……それはただ……そう、あの黒い霧は飲み込むものをそこにある空間ごと押し潰して拡がっていたのだ。
そう説明する以外、どうにも理解できなかった。
「あ、ありゃなんだ!」
「知るもんか、私の同僚もあれに………あの黒い霧に飲み込まれちまったんだ!」
菅井はナビの画面に目をくばらせながら何とか逆走しないよう、そしてなるべく広い道をえらんでハンドルを切り回した。そうしてようやく山間部を抜けて、交通量が増えるであろう平野部に入るころには二人は多少なりとも理性を取り戻し、行動にも余裕がもてるようになっていた。
「そうだ………あんた携帯もってらか?」
「そうだった……おい頼む、女房に電話をつないでくれないか。それから……」
「先ずはこっちが先だ、協力してけれ」
菅井は思わず喉元まで出かかったものを飲み下すと、素早く胸ポケットから携帯電話を取り出して警官に渡した。
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