第二章~避難~

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   彼は、唯一正しく反応する自分自身に答えを求め、苦悶する。  私は出来ることをやったんだ……不可解な出来事を伝えたかったんだ。それが間違いなのか?それが正しくないことなのか……?  これが命からがら逃げてきた者への、正当な扱いだとでもいうのか………逃げるだけの無力な男は、口を開く権利さえないというのか?  「そんなことはない………」  「……あ、あなた…?」  「断じて………断じて、そんなことを認める訳にはいかない………!」  菅井は妻を振り払い、周りにいるすべての人々を矢でも鉄砲でも持ってこいというような目つきでにらみ返した。加藤は彼を怒鳴りつけ、勝手にやってくれとばかりに自分と菅井の妻を連れて外へ出ていってしまった。  菅井はなんとか平静を装って、自分は必ず正しいことをしているのだと強く自分にいい聴かせ、再び説得を開始する。  自分がここに来るまでにどんな体験をしてきたかを話し、正体不明の黒い霧が何を起こしているのかを聴かせ、どんな想いでこの話しを皆にしているのかをひたすら語り続けた。  真摯な想いが報われると『思うことの愚かさ』を、迷惑顔の聴衆は菅井の言葉に懇願の色が濃くなるほど彼にぶつけてゆく。  それは無言と沈黙で菅井を責める者、罵倒と嘲りで彼を傷付ける者、次々と菅井の脇を通り抜けてゆくたびにゴミをぶつけ、頭を叩き、土下座する彼の脇腹や尻を蹴飛ばして身勝手な制裁とする者………ついに菅井は土下座したまま涙で顔をぐしゃぐしゃにして何度も懇願し、無駄な時間を浪費するに至った。 .
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