第二章~避難~

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   人の出入りの激しいサービスエリアの食堂にあって【できれば関わりたくない人物】を排除するため、何人かの店員と客が共同して菅井を建物の外に放り出した。  菅井の声は誰の耳にも届かず、駐車場を移動する車の妨げになった中年男性の体はクラクションの標的と成り果てた。  困難に立ち向かうことを良しとする者の目には、彼の行動は勇気と美徳に満ちたものと映るかもしれない。また人として正しいことをしたという者は、彼を称賛するかもしれない。  ただそのどちらにしても彼が行ったことに価値があったと、評価する者はいないだろう。結果をだすことに目的をもつ事柄とは───それは菅井の良心にしてもだ───すなわち生産的であるかどうかが重要なのだ。  彼の行動は見事なまでに非生産的であった。  それはまるで、あの【黒い霧】に押し潰された世界のように、無価値で希望のないものだった。  絶望の正体こそ、あの黒い霧だと、菅井は思った。       †  いつの頃からか、どれだけ時間がたったのか、気がつくと座り込んだ菅井のかたわらで妻が一緒に泣いていた。  妻がもらい泣きのようにめそめそしているのを見て、彼は少しためらったのち妻の肩を力強く抱きしめて立ち上がらせる。  震える肩が、妻の身体がこれほどまでに小さいと感じたのは、今まで一度でもあっただろうかと………菅井は思った。 .
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