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加藤は今までのことをまるで帳消しようとするごとく、これからの行動を熱心に語り始めた。菅井は腕時計をチラッと覗くと、青く澄み渡った空を見つめて深く、さらに深く息を吸い込む。
これが他人の意見の在り方というものなのだ………個人の求める結果が思い通りになることなどない。仕事でさんざん学んできた『失敗するための方法』とは、今の私そのものじゃないか………まったく、馬鹿馬鹿しいのか恥ずかしいのか分かりゃしない。
苦笑と失笑、そのどちらもが醜いアヒルであり、菅井と加藤両夫婦にとって最も生産的なのかもしれない。
菅井は、ここに至って始めから自分に選択肢が与えられていない事に思い至り、力無くつぶやくように口をついた。
「時間も………目的地もない………出来ることをやるしかないならば、事態が明らかになるその時まで逃げるしかない………私には『自分も救う』という義務があるからだ」
「わかりました」
そういった加藤の視線は菅井をとらえ、気まずくなりそうな気配を払拭するように真剣だった。
そして四人は今後の行動を熱心に、だが迅速に話し合った後、別行動をとることになった。もちろん菅井はできうる限りの最善の行動をとるよう加藤夫妻を説得したが、事がどれだけ重要な局面にあるかを述べるごとに彼らは別行動をとるといいはった。
自分たちには両親がいて兄弟もいる。事態を説明できるならそうする義務が、あなたと同じようにあるのだと………。
「菅井さんの御両親はどちらに?」
「妻も私も、両親は他界してるんだ……肉親といっても妻の弟がアテネに住んでるくらいなものだよ」
「なら、弟さんを心配させるようなことにはなりませんね」
そうなればいいのだが。
菅井は強くそう思った。
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