第二章~避難~

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   民間の航空機からの報告はすぐさま最寄りの気象観測所へ送られたが、初期の情報は不手際から単なる通信ログとして扱われ、何の対応もとられなかった。その結果、【黒い霧】に包まれた飛行場へ向け出発した航空機は、管制飛行が行えず着陸不能に陥り、最寄りの飛行場へ緊急着陸を余儀なくされていた。  中央行政機関が事態の異常を把握し始めたころ、気象衛星『あさがお』からの映像にはA県全体を覆い尽くすようなほぼ円形の黒い影が映っていたが、機械的な異常として対処されてしまった。画像に映る黒い影となった部分では実質的な観測数値が記録できず、太陽光による地表面反射も赤外線計測も数値化できなかったのだ。  皮肉なことに、政府は自国を監視する直接的な衛星管理網を所持しておらず、これら気象衛星が弾きだす結果だけが『政府独自の観測記録』として公認されていたのだ。リアルタイムでの実際の画像解析が遅れ、各省庁にとどく未確認情報の裏づけに手間取り、錯綜する情報に振り回された行政機関は災害対策室を設置する前に内部統制を失いつつあった。  これらを含め、広範囲な地域における全面的な電力、通信の途絶という異常事態は官民双方にわたり対処不能な混乱を引き起こしてゆく。  組織は統率のとれた足並みがみだれ、頭脳機関は事態の理解に苦しんだ。何かが起こっているのは間違いないのだが、それが何なのか断言できる者がいなかった。  入ってくる情報は増える一方、そのどれもが現実性と信憑性に欠けていたのだ。  どんな情報も推測も信用できない、そんな中………ただひとつ確実なのはA県を中心にあらゆる情報媒体と全ライフライン網が沈黙し、それが時間と共に範囲を拡大させているという事実だけであり、オカルティックともいえる【黒い霧】の存在は排除され続けた。  人々にようやく情報が流れるようになった時にはすでに、【黒い霧】に呑み込まれた地域はとてつもない範囲に膨れ上がっていた。あらゆる対応策が後手後手になり、この時点ですでに、【黒い霧】から逃れるすべての望みは絶たれていた。 .
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