~エンディング~

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   ここにひとりの、奇跡的な幸運を手に入れた人間がいる。  いや、それが幸運かどうかはともかく、誰よりも早く逃げることの正当性に気付いた中年男性が妻とともにいる。  彼は加藤夫妻と別れてから一時間以内に席が取れそのうえ海外へ飛び立つあらゆる航空便を空港に問い合わせ、五十分後のハワイ行きの席をふたつ予約した。計算上の時間にはまったく余裕はなかったが、それでも確実にチケットのとれる最も近場の国際空港へと進路をとることにしたのだ………ここより遠くの空港では移動に時間がかかり過ぎて、いつ起きるかもわからないパニックに巻き込まれる可能性があったためである。  二人は空港に着くやいなやキャッシュ・ディスペンサーでありったけの現金を引き落とし、半分をドルに、残りをマルクとフランに全て換金した。  妻の戸惑いをよそに、菅井の心配は飛行機の欠航と空港の閉鎖にあった。もはやいつ発電所からの送電が止まるかわからなかったのである。ただ実際には菅井が予約した便を待つ間に送電網は破綻してしまい、自家発電設備によって空港機能の大部分が補われていたのだが。  よって、まさに間一髪、菅井夫婦の搭乗した事実上最後の旅客機は急激な加速度によって地表との接点を失い、晴天の迷宮へと舞い上がっていったのである。 .
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