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菅井は座席に取り付けられたイヤホンを通じて、キャビンにかかげられたプラズマ・ビジョンの映像に食い入った。周囲では離陸前からの喧騒が今だに続いており、パーサーからの注意や説得もまるで効果を上げていなかった。
画面には首都上空を飛行しているといった航空自衛隊からの映像が流れていたが、そこにはただ漆黒の、闇よりも暗い景色がひたすら映るばかりであった。
たまに映る空の青さとあいまって、その映像は絶望よりもはるかに壊滅的なイメージを見るものにあたえる………地表はいまや、見渡す限りの【黒い霧】に覆い尽くされていた。
しかも時間がたつごとにその映像すらもノイズに侵されるようになり、音声も途切れがちになっていった。首都圏に集中していた全国ネットのあらゆる放送機関が沈黙し、いまや放送を行っているのは地方のローカル局だけになってしまったせいである。
そして彼らを乗せた旅客機は猛スピードで局の放送圏から離脱しつつあるのだった。
もうすぐこの映像も消えることになり、そうなれば次に的確な情報を聞けるのはハワイに着いてからということになる。
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