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峠をぬけると、国道はなだらかな山間をはしる道路に変わった。
彼は以前にまして速度をあげ、メーターは一気に百二十キロに達する。脂汗にぬめるハンドルから片手をはなして額をぬぐうと、バックミラーを見た。
黒い霧はいまだに彼の後を追うように見えたが、どうやら一キロ近くは引き離したようだった。しかし到底速度を緩める気にはならない。彼はあの峠道を低く見積もっても時速七十キロ前後で走ったにもかかわらず、あの黒い霧はそれに食いついてきたのだ。それはもう疑う余地などなかった。
それは明らかに【霧】という次元のものではなかった。
では……あれは、いったい何なのか?自然現象か、はたまた人工的なものなのか。
わかっているのは一瞬のうちに六人の男たちを飲み込んだこと、そして断じて無害ではないということだけ。毒か何かは解らないが、確かにあれは六人の同僚たちに異変を起こしたのだ。でなければ一瞬にして悲鳴が掻き消すように聞こえなくなった説明がつかない。
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