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今度はパニックこそ起こさなかったものの、いままでより遥かに現実味をおびた恐怖を感じることとなった。
あれは確実に脅威をましている………自分が出合った時には、あんな木を倒すようなものではなかった、しかもとんでもない大きさになっていて、スピードも落ちてはいない。
考えたくもない不安が徐々に鎌首をもちあげてくる。このまま走り続けるわけにはいかない、という現実……いくら休日の早朝とはいえ、百キロを超えるスピードではどこまで走れるものではない。そのうち必ず車の流れにせき止められてしまう。
その時はどうするのか?
もしあれが消えるか止まるかしなければ、いずれ自分も飲み込まれてしまう……いくら考えても、答えはでなかった。
菅井には、とりあえず今できる最大限のことをするしか選択肢は残されていなかった。
そこで彼はナビのスイッチを入れると黒い霧からできるだけスムーズに遠ざかれる進路を探し、転進すべきルートを確認してゆく。あてずっぽうなハンドル操作から解放され、やや気が緩んだ菅井は(誰かと連絡をとらなければ)、ということに気がついた。
そうだ、女房に、あいつに知らせなければ……。
そう思って胸ポケットにしまってある携帯電話を取り出して妻の名前を出しているところへ、カーブを曲がって現れた対向車が視界に飛び込んできた。
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