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視線が合えば、
今度は見開かれた目を
ずっと此方に向け続けている。
ただ、繁々と《物体》を眺むるような目である。
あまりに視線を合わせ続ける
事に堪えきれず、目を逸らした先で、彼女の体から毛布が外れているのに気が付いた。
空調が効いているとは言え、
冬のさなか浴衣一枚である。
念の為にと毛布を直し、
ついでに襟元も揃えてやった。
還暦を越えたとは言っても
女性である。
ちょいと覗いただけで、乳房の膨らみが半ばまで見えてしまうのは、きっと恥ずかしいに違いない…。
出来れば、アチコチ摩っても
やりたいのだが、女性の体を
撫で摩るとなれば、甥の立場
では、資格不充分の様で気が
引けていた。
何やら妙な緊張感を伴いながら襟元を直していると、彼女は
大きな欠伸をした。
━そんなもの…
別に気にするもんかい━
何故か、そんな風に言われた
様な気がして…又、逆に此方の妙な意識を見透かれた様で当惑してしまった。
であればこそ、撫で摩るなど
到底及ばなかったのである。
モノ言う能力と引き換えに、
全てを見透すチカラを得たの
ではないかと、秘かに恐怖していた。
もう…三年もこんな状態が
続いていた………。
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