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何故か久家川が……
しおらしく見える……
人が距離感で悩んでいたというのに、そんなことを知るよしもない久家川はうんと距離を縮めてきた。
目の前に久家川が立った上、ヒールのあるブーツのお陰で目の位置が以前よりも近い……
だが、それで気付いた。
久家川のまぶたに薄く傷が残っていること。
それら傷跡を隠すように、薄く化粧をしていること。
左目だけがピクピクと細まり、“何事か”と尋ねる前に、答えが返ってくる。
「……左目……ほとんど視力なくて……」
「……」
「……先輩……すみませんが、私の右側歩いてもらえませんか? 人と話す時は目を見て話す……が、原則ですもんね」
視力が、ない……?
視力が落ちたのか……あの事件で傷を負って……
そんな……片目とはいえ、久家川はバスケをしているんだ……プレイに支障が出ないわけがない……
「……お前……」
「バスケは辞めました。バスケは不純な理由で始めたものだし……今から大学受験に向けていい機会だと思って……」
「……だが……ッ……」
「日常生活に支障はありませんから。それに近付けば左目でもぼんやり見えるんです」
「ち、近い……!!」
「あ……はは……ごめんなさい」
「……」
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