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大学から部屋まで約20分。
その間に名前ももちろん聞いたけれど、後々あたしはこの男をプーと呼ぶようになる。後々の混乱を避けるため、最初からプーで行こうと思う。
プーから色々な話を聞いて分かったのは、あたし達は同学年、同学科であること。
実は彼は去年一度留年していて、去年まではあたしの先輩だったらしい。全然授業に出てないので、結局あたしと同じ三年生になってしまったようだ。
(大丈夫なの、こんな人で)
とは思ったけれど、他に頼る人がいない。
部屋に入る前
「ちょっと散らかってるけど」
とあたしが言うと、彼はふんと鼻を鳴らした。
「どうでもいい」
ムカつく奴だ。年頃の女に興味がないなんて。
あたしの家は入るとすぐキッチンだ。で、ドアが二つあって、洋室が二部屋。ひとつはベッドがあって、洗濯物も干してある。
だからもうひとつのリビング部屋に通して
(一応飲み物くらい出そうかな)
と思った時だった。
プーは、キッチンの辺りにぼんやりと立って
「なんだ、ここ」
と驚いたように辺りを見回した。
「どうしたの?」
「なんか…やばい…」
プーはバッと両耳を押さえ
「すげ、耳鳴りが」
と言う。
耳鳴りがするくらいだから痛がったり、不快な感じだったりするのかと思ったら、そうじゃない。
目を爛々と輝かせて生き生きしていた。
「ひっさしぶりぃ…この感じ」
何かスリルを感じているような口調で、彼はうろうろとキッチンを歩き回った。
と言ってもせまいキッチンだから、行く場所もあまりない。
「どこだ、どこだぁ?」
彼は何かを…多分、「本体」と彼が呼んだ霊を探しているのだと思ったけれど、それが本当にいるかどうかも分からない。あたしは何も感じない。
「あの、何か飲む…?」
あたしがそう言って冷蔵庫から飲み物を出そうとした時だった。
「しめろ!」
彼が叫ぶように言った。
「シメロ」
という言葉の意味が一瞬分からずにいると、彼が手を伸ばし、バタン!と開いた冷蔵庫の扉を閉めた。
あたしはびっくりして、目が点だ。
「なんで…?」
「やばいのが、冷蔵庫の中にいる」
「え……」
あたしは恐る恐る冷蔵庫を見た。扉は閉まっている。中には夕飯の残りやジュース、食材があるはずだ。
「や、やばいのって何…?」
あたしは震える声でたずねた。
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