76022人が本棚に入れています
本棚に追加
一人暮らし用の背の低い冷蔵庫だ。人はとても入れない。
冷蔵庫の中に何が「いる」と言うのだろう。
少なくとも今までに冷蔵庫の中で食べ物以外の何かを見たことはない。
「どういうこと…?」
あたしが聞くと、彼は冷蔵庫とあたしとを交互に見ながら言った。
「さぁ、中はまだ見てないから「何」かは分からん。けど、やばいのは確か。多分、あんたに憑いてた奴の本体だな」
「本体って…何」
「だから開けて見るまでは分からん。けど、なんか普通に開けたんじゃ、俺もヤバそうだから、ちょっと下準備してからにしよう」
そう言うと、彼は急にキッチンをあさり始めた。
棚から砂糖と塩を引っ張り出して舐め比べ、塩を小皿に盛る。
(盛り塩…)
お店の前なんかでよく見る奴だ。その盛り塩の山が乗った小皿を二つ用意しながら、彼は言った。
「過食とか拒食とか、なんかないか」
「え…。別にそこまでじゃないけど、食欲はあんまりなくなっちゃったかな。あ、お菓子はよく食べるけど」
「やっぱりそうか」
彼は何かが分かっているような口ぶりだ。
「何がやっぱり?」
「さっきも言っただろ。子どもの霊だって。それが冷蔵庫の中に入ってる。その中にあるもん食ってたら、そりゃ食欲も失せるだろう。食欲ない癖にお菓子は食えるなんて、いかにも子どもの霊っぽい」
「……っ」
ぞわっとした。
(霊がいる冷蔵庫の中のものを食べていた…?)
それにお菓子を食べるようになったのは、あたしの好みが変わったんじゃなく、霊のせいだと言うことだ。
あたしの中に何かがいるような気持ちの悪さ。
「うぇ…」
吐き気がして口元を押さえた時、彼がバン!と強くあたしの背中を叩いた。スッと肩が軽くなる。
「しっかりしろ、体の中に取り入れるな」
「そんなこと言ったって…」
というか、今あたしの中に入りそうになったということだろうか。怖い。足が震える。
彼は言った。
「ビビると入るぞ。腹に力入れて、自分が自分だってことを言い聞かせろ。ビビりそうなら、なんか明るい歌でも歌え」
「歌…」
そう言われてもとっさには出てこない。頭に浮かんで来たのは「ねんねんころりよ」の子守唄で、流石にこれには
(何かいる)
と実感せざるを得なかった。
最初のコメントを投稿しよう!