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「飢え死にした子どもの霊に取り憑かれるような真似をした記憶はないんだろ」
「当たり前でしょ」
あたしはきっぱりと答えた。こんな飽食の時代に飢え死にをするなんて、ニュースの中でも滅多に聞かない。当然ながら身近な所でそんな話など出るわけもなかった。
「これはあくまで俺の推測だけど」
と前置きをしてから、彼は続けた。
「あの霊、冷蔵庫に入ったのは偶然にしても、あそこに住み着いたのはお前のせいだぞ。お前、食べ残しを冷蔵庫に入れてるだろ。多分、あいつ、それが分かってるから冷蔵庫にいるんだよ。餌をもらう感覚だな」
「そんな…だって冷蔵庫に余りものを入れてるだけなのに」
「向こうはそうは思ってない。多分、お前のことを気に入ってるんだ。同情してくれるし、餌はくれるしってな。親みたいなもんだ。もしかしたら、その金縛りになった友達とか言うのは、親を取られたくないがために、霊が悪さをしたのかも」
「そんな…」
未だにあれから朱音と連絡が取れていない。心配だ。
彼は言った。
「冷蔵庫の中のもん、食べたんだろ、その友達も。やばいぞ、あの冷蔵庫の中の食い物は」
「でもあたしは毎日食べてたんだよ」
そう思うと怖いし、確かに食欲もかなり落ちていたけれど、そんなヤバイほどではない気がする。でもそれも彼に言わせれば
「お前は気に入られたからだろ。お前が倒れたら餌をくれる奴がいなくなるじゃないか」
ということになるらしい。
あたしは知らず知らずのうちに、冷蔵庫で餓えた子どもの霊を飼っていた。なんだかとんでもないことをしてしまった気がして顔が青くなる。
「どうしたらいいの」
あたしがたずねると、彼は
「だから俺があの冷蔵庫ン中から引きずり出してやるって言ったんだ」
と肩をすくめた。
「どうやって」
「盛り塩はある種の結界だ。今は盛り塩があるから、奴は冷蔵庫からは出てこられない。退かせば出て来る」
「出て来てどこに行くの」
「そこが問題だ」
彼は言った。
「幽霊ってのは壁を自由にすり抜けるのもいるが、ご丁寧にドアから出入りする奴のが多いんだ」
「え、そうなの?」
そんな話、聞いたこともない。
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