75997人が本棚に入れています
本棚に追加
/967ページ
「大丈夫、絶対開けない」
あたしはそう約束して、彼が部屋から出て行くのを見送った。扉がしっかり閉まったことを確認して、一人部屋に残る。
扉の向こうで、彼がなにかがさごそやっているのが聞こえた。
(っていうか、今さらだけど、すっごい怪しくない?あの人)
別に台所には貴重品もないし、下着の類も置いていないけれど、何をそんなにがさごそやっているのか気になってしまう。
もちろんそれでドアを開けるようなことはしなかったけれど、代わりに向こう側からは
「うぉおおおああああ!」
というとんでもない絶叫が聞こえてきて、あたしはビクッ!と震えてしまった。
「だ、大丈夫?」
一応声は掛けてみたけれど、返事はない。
ただ、ボソボソと呟く彼の声がして、その後にバン!ガタ!という音が聞こえて来ただけだ。
「てめええええ!このクソガキがぁあ!」
喧嘩でもしているかのような声がする。ご近所から苦情が来そうで心配だ。
(まさか霊と格闘してる?)
有り得ないが、そんなことを本気で考えてしまう。
その騒がしい音が突然、ぱったりと止んだ。
「あ、あのー…」
静かなのは不気味だ。あたしは極力早く彼と会話をしようと、恐る恐る声を出した。
かなりの間があって、やがて
「おー、もういいぞ、出て来い」
と彼は言った。
「ほんとに大丈夫?」
「まぁ、一応」
あたしはようやくドアを開けた。まず台所を確認し、そこに何も変化がないことを確認する。ただ冷蔵庫の前に、中に入っていたタッパや飲み物が出されていた。それから真ん中に立っている彼を見て
「どうなったの…?」
と聞いてみた。
「なんとかなった」
と彼は言う。
「でも一応、この冷蔵庫は使うな。冷凍庫は使えるから、そのまま使えばいい」
「え…」
最初は冷蔵庫なしでどうやって生活するんだと思ったけれど、たとえ中に霊がいなくなったと聞いても、もう二度と使いたくない気がしたので、あたしは結局うなずいた。
「うん、分かった」
冷蔵庫くらいリサイクルショップに行けば、安く売っている。また買えばいい。
最初のコメントを投稿しよう!