出会い

21/24
75996人が本棚に入れています
本棚に追加
/967ページ
 彼は言った。 「盛り塩、まだ冷蔵庫の前に置いてあるから、あれは動かすなよ。三日に一度くらいは変えろ」 「うん…」  あたしはうなずきながらも、同時に (あれ?おかしい) と思った。  だって彼の説明によれば、盛り塩というのは結界のはずだ。そこを霊が通れなくするための。  せめて玄関から入ってこないように盛り塩をするのは分かる。でも、もう霊がここにいないのなら、冷蔵庫の前に盛り塩をする必要があるのだろうか。 「新しい冷蔵庫買おうと思ってるんだけど…そしたら盛り塩もいらない?」  あたしがそう言うと、彼は首を横に振った。 「冷凍庫は使えるんだぞ。いくらなんでも冷蔵庫ごと捨てるのはもったいないだろ。なら、俺がもらう」 「え、あぁ、うん、別にそれはいいけど」  あたしはつい (この人、冷蔵庫が欲しいだけでは?) と思ってしまった。まぁ、どうせ冷蔵庫を捨てるのは粗大ゴミでお金がかかるから、もらってくれるというならそれでもいい気はするのだが。 「まぁ、そのうち引き取りに来るから、それまでは冷蔵庫はここに置いといてくれ」  彼はそう言うと、冷蔵庫の前に出してある牛乳を持ち上げて 「これ飲んでいい?」 と言う。 「は?別にいいけど…でもその冷蔵庫にあったものは飲み食べしない方がいいんじゃ、ないの?」 「あぁ、普通の人はやめた方がいいと思うけど。俺は平気だから」 「…あぁ、そう。どうぞ」  あたしはグラスを取り出して、彼に手渡した。彼はそのグラスに牛乳をなみなみと注いで、喉を鳴らしてごくごくと飲み始めた。あたしにはその根性が信じられない。  そういえば、朱音もうちの冷蔵庫の食べ物を飲食している。 「あの、そういえば友達が心配なんだけど、大丈夫なのかな…?」 「あぁ、大丈夫だろ。ただの食中毒みたいなもんだ。食べ続けるならともかく、たった一度なら時間が経てば治る」  彼はけろりとしてそう言った。 「あなたは食中毒、怖くないの」 「だから俺は平気なんだって」 「そう…」  よく分からないが、あまり深く突っ込まない方が良い気がした。  これは勘という奴だ。あたしは勘が鋭くて、よく当る。だから自分の勘にはあまり逆らわないようにしている。
/967ページ

最初のコメントを投稿しよう!