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彼は言った。
「盛り塩、まだ冷蔵庫の前に置いてあるから、あれは動かすなよ。三日に一度くらいは変えろ」
「うん…」
あたしはうなずきながらも、同時に
(あれ?おかしい)
と思った。
だって彼の説明によれば、盛り塩というのは結界のはずだ。そこを霊が通れなくするための。
せめて玄関から入ってこないように盛り塩をするのは分かる。でも、もう霊がここにいないのなら、冷蔵庫の前に盛り塩をする必要があるのだろうか。
「新しい冷蔵庫買おうと思ってるんだけど…そしたら盛り塩もいらない?」
あたしがそう言うと、彼は首を横に振った。
「冷凍庫は使えるんだぞ。いくらなんでも冷蔵庫ごと捨てるのはもったいないだろ。なら、俺がもらう」
「え、あぁ、うん、別にそれはいいけど」
あたしはつい
(この人、冷蔵庫が欲しいだけでは?)
と思ってしまった。まぁ、どうせ冷蔵庫を捨てるのは粗大ゴミでお金がかかるから、もらってくれるというならそれでもいい気はするのだが。
「まぁ、そのうち引き取りに来るから、それまでは冷蔵庫はここに置いといてくれ」
彼はそう言うと、冷蔵庫の前に出してある牛乳を持ち上げて
「これ飲んでいい?」
と言う。
「は?別にいいけど…でもその冷蔵庫にあったものは飲み食べしない方がいいんじゃ、ないの?」
「あぁ、普通の人はやめた方がいいと思うけど。俺は平気だから」
「…あぁ、そう。どうぞ」
あたしはグラスを取り出して、彼に手渡した。彼はそのグラスに牛乳をなみなみと注いで、喉を鳴らしてごくごくと飲み始めた。あたしにはその根性が信じられない。
そういえば、朱音もうちの冷蔵庫の食べ物を飲食している。
「あの、そういえば友達が心配なんだけど、大丈夫なのかな…?」
「あぁ、大丈夫だろ。ただの食中毒みたいなもんだ。食べ続けるならともかく、たった一度なら時間が経てば治る」
彼はけろりとしてそう言った。
「あなたは食中毒、怖くないの」
「だから俺は平気なんだって」
「そう…」
よく分からないが、あまり深く突っ込まない方が良い気がした。
これは勘という奴だ。あたしは勘が鋭くて、よく当る。だから自分の勘にはあまり逆らわないようにしている。
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