飲み会

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 あれ以来、うちで変なことは起こっていない。食欲が落ちるようなこともなく、平和な日々を過ごしていた。  うちには冷蔵庫が二台。  うち一台は一応電源は入りっぱなしだけど、全く使っていない。  もう一台はリサイクルショップでかなり安く買った、ちょっと可愛いピンク色のものだ。  はじめこそ (あの冷蔵庫が寝ている間に勝手に開いて、中から痩せ細った女の子が出て来るんじゃないか) と思うといてもたってもいられなくて、夜中に友達と長電話をしたりしていたのだけれど、平和な日々を過ごしているうちに恐怖は薄れ (この冷蔵庫、邪魔だなぁ) と思うようになって来た。  その冷蔵庫はプーが引き取るという約束だ。 (大学で会ったら声を掛けよう) と思っていたのだけれど、その頃、彼は大学ではちょっとした有名人で、声を掛けづらい状態だった。  というのも、彼に関するある噂が流れていたのだ。  あたしがその噂を聞いたのは、親友の朱音(アカネ)の口からだった。 「カナ、あいつと付き合ってるって本当?」  朱音に真面目な顔でそう聞かれた時、あたしは何の話しだかも分からず 「はぁ……?」 と目が点だった。  よくよく聞いてみたら、図書館からあたしとプーが手を繋いで出て来る所を目撃した人がいるという話で 「あぁ、あれはちょっとした事故みたいなもので」 とごまかしておいた。  あたしの部屋の冷蔵庫には霊がいて、その冷蔵庫の中のものを朱音に食べさせました、とはとても言えない。  とにかく 「別に付き合ってるわけじゃないって」 とあたしが否定すると、朱音は大袈裟に胸を撫で下ろして 「良かったぁ。びっくりさせないでよ」 と言う。  確かにあたしは二年ほど彼氏がいないけれど、その反応はちょっとどうかと思う。 「何よ、あたしが男の子といたら、そんな驚く?」  そうたずねてみると、朱音は 「そういうわけじゃないけど、あいつだけはやめときなよ」 と言い出した。 「朱音、知り合い?」 「私は直接知らないけど、サークルの先輩が話してたんだよね」 「どんな話よ」 「あいつはヤバイって」  ヤバイってなんだろう。
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