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それからプーは「日本郷土史」という選択授業を取っていて、それには欠席も遅刻もしたことがない。
一度、その授業の時に近付いて行って話しかけたことがある。
「ね、冷蔵庫いつ取りに来てくれる?」
「……あぁ」
かなり沈黙してから、プーはようやくそれだけ言った。
(今、この人、あたしのこと完全に忘れてた!)
今の沈黙はあたしを(あるいは冷蔵庫のことを)思い出すまでの間だ。ちょっとカチンと来ながらも
「普段、忙しいの?」
と聞いて見ると
「まぁ」
と気のない返事が返って来た。
(話し掛けてやるんじゃなかった)
あたしはそう思いながらも嫌味のつもりで
「日本郷土史学のレポートもあるしねぇ、忙しいよねぇ」
と言ってやった。
日本郷土史学の教授は出欠に関しては甘いが、レポートは相当厳しいと有名だからだ。もちろんあたしも同じ授業を受けているので
(あたしだって大変なのは同じで、むしろ授業に全然来ないあんたのが暇なはずなんですけど?)
という意味が込められている。
が、プーはそんなの知らんぷりで、急に
「今度の土曜は?」
と言う。
「は?何が?」
「暇かどうか聞いてる」
「まぁ、暇……っていうか、空いてる」
こいつに対して「暇」って言うのは、なんだか嫌だ。まぁ、暇なんだけど。
「じゃぁ、今度の土曜に。時間は連絡する」
どうやら冷蔵庫を引き取りに来てくれるらしい。
「分かった」
あたしは肩をすくめて、プーのそばを離れた。
彼は確かに変わっている。
(でも頭がおかしいってことはないと思うんだけどなぁ)
流石にそれは言い過ぎだ。
それから数日後、朱音に誘われて飲みに行った。
そこでキョン先輩を紹介される。
落ち着いた話し方をする、大人びた人だ。
もう一人はヒロヤ先輩と言う、明るいお調子者タイプだった。
「カナちゃん、あいつと仲良いんだって?」
ヒロヤ先輩は明るいオレンジの髪を揺らして首をかしげた。
あいつ、とはつまりプーのことである。
「いえ、仲いいってほどじゃ」
あたしは断固として否定する。
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