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大学三年で、あたしは憧れの一人暮らしを始めた。
一ヶ月をかけて部屋探しをして、あたしが選んだのは十階建てマンションの、八階の部屋。しかも808号室。
末広がりでいい数字だし、ベランダからは隣の公園が見下ろせる。近くにコンビニ、駅まで徒歩十分、大きなスーパーも近くにあるし、便利な場所だった。
引っ越したその日は母親が手伝いに来てくれて、スーパーで買ったお惣菜とお赤飯を二人で食べて、残りは冷蔵庫に入れておいた。
母親は泊まらずに帰った。
一人暮らしで一番大変だったのが、食事。
大学がある日は友達と夕飯を食べて帰って来ることが多かったけれど、そもそもあたしは文系だったし、一二年のうちにかなりの単位を取ってしまっていたから、三年の時は週の半分しか授業がなかったのだ。
学校に行かない日はアルバイトをしていたけれど、同僚は一緒に夕飯を食べるほどの仲ではなくて、家で自炊しなくてはならなかった。
一人分のご飯を作るというのは大変で、どうしたって一度作ると二日同じものが続く。煮物とかカレーとか。
一日目は普通に食べて、余ったらジップロックに入れて、二日目にチンして食べる。
カレーなんかは鍋のまま放置。二日目になると味が染みこんで美味しい。
一人暮らしだからと栄養が偏らないように気をつけていたし、前は飲まなかった野菜ジュースなんかも飲むようになった。
あと、甘い物も食べるようになった。帰りにコンビニでお菓子とか見つけると、ついつい買ってしまう。
お気に入りはサイコロキャラメル。懐かしい味がした。
異変が始まったのは、二週間目だった。どうも体がだるくて、食欲も余り無い。
まだ四月に入ったばかりだけど
(早くも五月病なのかなぁ)
と思っていた。
それでも大学を休むわけにはいかないから、学校に行くと
「なんか痩せた?」
と友達に心配そうに言われた。
まぁ、ある意味ダイエット成功ではあるが、ちょっと貧血気味でふらふらするようなこともあって、我ながら
(危ないな)
という実感はあった。
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