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「霊魂が見えたらどうしようと、怯えた心のままでは、どんな難しい言葉の祈祷を覚えても、どんなややこしい儀式をしても、全く効果はないんだよ」
責めるようなものではなく、やんわりと諭すような口調で、おじいさんは続けた。
「まず、自分には霊感がないと言う固定観念を捨てなさい。そんな力が自分にあるわけがない、と言う観念が、余計に心を恐怖に落とすんだよ」
そうかも知れない。
霊がいるわけがない、霊感なんか自分にはない。
そう意地になる方が、恐怖を倍増させるような気がした。
「そうじゃなく、自分はたまたま、少し他の人より不思議な力が強いだけだと思えばいい」
おじいさんにそう言われて、あたしはこくりと頷いた。
「…はい」
そして、おじいさんは
「うちの孫は力が強かったから、少し難しい祈祷の言葉も教えたけども…カナさんは、そこまで困っているわけでは、ないね?」
と確認するように言った。
「はい。不安があるだけで…」
例えば、プーのように霊感が強すぎて、普通の生活を送れないほどだとか、そう言うわけではない。
あたしがそう言うと、おじいさんは
「それなら、今ここで祈祷やお祓いのやり方は、教えないよ。いいね?」
と少し首を傾げた。
「はい」
「例えばこの先に、もっと霊感が強くなって、本当に困った時は教えてあげるから。その時は、いつでも顛限院に来なさい」
「…はい」
本当に困ったら、助けてもらえる。
その言葉があるだけでも、十分に支えになる。
おじいさんは言った。
「顛限院が何のためにあるのか、聞いたかな?」
「あ、はい。村を守る為だって…」
「じゃぁ、ここが仏教のお寺ではないことも、知ってるね」
「はい」
あたしが頷くと、おじいさんはこんなことを教えてくれた。
「死を穢れとする神社に配慮して、日本のお寺と言うのは檀家以外には門を閉ざしていることが多くてね」
それに対し、この顛限院は仏教のお寺とは違うから、常に門を開いているのだそうだ。
「村の人がいつでも逃げ込めるようにね」
「…そうだったんですか」
「顛限院は村を守る為にあるけども…何も村の人に限ったことじゃない。助けを求める人のために、いつでも門を開けてあるんだよ」
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