山形・最終日

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 山形旅行の目的でもあった、おじいさんとの話も済んで 「そろそろ帰るか」 とプーが言うので、あたしはその日、バッグに荷物を詰め込んだ。 「もっとゆっくりして行ってもいいんだよ」 とおじいさんもフキ子さんも言ってくれたのだが、そう長くお世話になるわけにも行かない。 「お邪魔しました」  あたしがバッグを手に頭を下げると、二人とも 「またいつでもおいで」 と門まで送り出してくれた。  プーは 「またそのうち」 とおじいさんに残しただけで、さっさと歩き出してしまう。 「ちょっと待ってよ…っ」  慌てて後を追う羽目になった。 「ねぇ、東海林くんには何も言わなくてもいいの?」  あの山を登る細い階段をのぼりながら尋ねると、プーは 「いいよ、面倒くせえ」 と呆気なく言う。 「面倒くさいって…友達でしょ?」 「いいんだよ、別に。また戻って来た時、いつでも話せるんだし」 「そういうもの?」  とは言え、東海林くんは、プーがそんな風に気兼ねない関係でいられる友達であることは確かだ。 (まぁ、プーがいいって言うなら、いいか) と思うことにした。  階段を登り切り、道を歩きながら、彼が不意に 「行きたいとこがあるんだよ」 と言う。 「行きたいとこってどこ?」 「〇〇市の寺の近く」 「お寺?なんでまた…」  ぽかんとするあたしに、プーは 「ちとやりたいことがあってな」 と薄く笑った。  大通りでタクシーを捕まえたプーは 「〇〇市まで行きたいんスけど、バスのがいいですかね?」 と運転手さんに聞きながら、とりあえずS駅まで乗せて行ってもらうことにしたようだ。 「〇〇市のお寺に何かあるの?」  あたしが尋ねると、それにはプーではなく、運転手さんが答えてくれた。 「N寺さんかな?あそこは、即身仏さんの拝観が出来るからね」
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