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「即身仏って…」
なんとなく聞いたことがあるが、仏教の中では、最も辛い苦行と言われているのが即身仏である。
簡単に言えば、ミイラのことなのだが、エジプトのファラオのミイラとはまるで違う。
エジプトのファラオのミイラは、死んだ後に防腐処理などをしたものだが、即身仏は生きている段階で、自ら進んでミイラになるものだ。
「…だったよね?」
あたしが自分の知識が間違っていないことを確認するように尋ねると、プーも運転手さんも口をそろえて
「お寺でミイラなんて口にしたら、怒られる」
と言う。
「まぁ、大体はあってるけど」
プーはそう言って、もう少し詳しく説明をしてくれた。
即身仏を目指す仏僧は、山に籠り、木の皮や木の実などを食べて、まず体の脂肪を落とすのだと言う。
「脂肪があると、体が腐るからな。生きてるうちから、防腐処理をするんだ」
穀物を断って、木の皮などを食べる生活をするうち、筋肉や皮下脂肪も落ちて、やがて骨と皮だけになる。
「自分から餓死に近付くんだ」
とプーは言った。
しかも毎日少しずつ、漆を薄くした水を飲むそうだ。
「え、漆って毒だよね…?」
あたしが驚きを隠せずに言うと、プーは
「毒だから飲むんだよ」
と答えた。
漆には体の腐敗を進める細菌を弱らせる効果があり、嘔吐すれば体の水分を外に出し、さらに腐敗を防ぐことが出来るからだ。
そこまでしながら、少しでも多くの人が救われるようにと祈り続ける修業である。
「生きたまま、ミイラに近付いて行って、最後は土の中に埋めた箱に入る。窒息しないように空気穴が空けられてて、その中で念仏を上げながら死ぬんだ」
想像を絶する世界である。
しかも、箱の中で亡くなっても、すぐに掘り出されるわけではないそうだ。
空気や水分に触れれば、腐敗してしまうからである。
「三年経ったら、掘り起こす。その頃には完全に乾燥して、即身仏になってるからな」
「そうなんだ…」
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