山形・最終日

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 実の所、全国で土中入内や即身仏の修業は行われていたそうだが、山形は現存する即身仏が、最も多い県だそうだ。 「山形以外にも、即身仏は東北に多い。なんでだと思う?」 とプーがちらりと横目に、あたしを見た。 「寒くて…乾燥してるから、南の方よりも腐敗しにくいってこと…?」  あたしの答えに、プーは 「正解。他にも理由はある」 と言う。 「東北はな、気候や開発の遅れがあって、昔は飢餓や貧困に喘いでいたからだ」  飢餓や貧困がある地域でこそ、仏教は人々の救いになった。  苦しみからの救いを求めて、多くの人が信仰に縋る。  そういった地域の僧は、少しでも多くの人々を助けようと、自ら苦行を重ねたそうだ。 「僧が冬の雪深い山に籠って、穀物も食べず、木の皮を食べて、念仏を読んでいる。その姿を想えば、自分たちの飢餓や貧困も乗り越えられる…」  プーは窓の外を見ながら、そう呟いた。  なるほど。即身仏と言うのは、ただ苦行を乗り越えたと言うだけではなく、多くの飢餓や貧困の喘ぐ人々の心の支えになっていたのだろう。  確かに、それでは単に 「ミイラ」 と呼んだりしたら、お寺で怒られてしまうだろう。  プーに聞いておいてよかった。  やがてS駅に到着すると、プーはお金を払って降り、そこからバスに乗り換えることにした。  少し長距離になるが、幸いにしてバスは空いていて、のんびり座って行くことが出来た。 「お寺までこれで行けるんだね」 「だな。とりあえず、寝る」  プーはそう言うと、腕組みをして、すぐに眠りに落ちてしまった。  あたしは窓の外に流れる風景を見ていた。  あたしが住んでいる所とそう変わらない、コンビニや銀行の看板が見える。 (差別かぁ…)  とてもそんなものがかつてあったとは思えない、本当に普通の光景だ。  同和問題を知らなかった以前のあたしのように、ほとんどの人が、ここで差別があることを知らずに生活しているのかも知れない。
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