山形・最終日

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 プーがいつかあの顛限院の村に戻る日が来るとしたら、その時にもまだ差別はあるのだろうか。 (なくなるといいな)  そんなことを思う。  否、そんな自分とは無関係の場所で起っていることではなく、もっと近い場所に、その問題は存在している。  プーが人を遠ざけ、人がプーを遠ざけるのを、あたしは見て来たのだから。  差別する側だけではなく、される側も恐怖や憎しみに支配されてしまうのだ。 (差別はなくすべきだ)  正しい“答え”は見えている。多分、プーにも。 (あたしに何が出来るんだろう)  そんなことを取りとめもなく考えていた時だった。  バスが目的地に近付いたらしい。  隣で眠っていたプーが顔を上げ、降車ボタンを押す。 「もうすぐ着く?」 「あぁ」  やがて、あたし達はあるお寺の近くで降車した。  そのお寺に、お坊さんの即身仏が安置されていると言う。 「行こうぜ」  プーに先導される形で、あたしは後を追った。  お盆の時期だからか、お寺には人が多く、即身仏を見るのに少し並ばなくてはならないらしい。  パンフレットの様なものを貰い、それを読みながら、ぼんやりと人の列に並んだ。 「暑いね…」  余りの湿気でじわりと汗が滲んでくる。  プーも暑さからか 「見るのやめて、別のとこ行くか…」 などと言っていたのだが、このお寺の即身仏を見る為にここまで来たのだから、そう言うわけに行かない。 「もうちょっと待とうよ」  なんとかプーをなだめながら、しばらく並んでいるうちに、ようやく中に入ることが出来た。  ガラスの向こう側、開帳された台座に安置されている即身仏を見た時、あたしの背にはゾワッと震えが走り抜けた。 (…あれが即身仏…)
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