山形・最終日

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「そうだっけ…」  言われてみれば、確かにプーの口から即身仏のことを聞いたわけではない。  プーは 「話に出て来たし、お前が興味持ってるっぽいから、見に来ただけ」 と言いながら、すたすたと歩き出した。 「え、じゃぁ、プーが行きたがってたのって、どこ…?」  不思議に思っていたが、あたし達は再びタクシーで、仙人沢と言う場所に移動することになった。 「仙人沢って、湯殿山だっけ?」  地理に詳しくないあたしでも、その名前くらいは聞いたことがある。  湯殿山、日本三大霊山の一つである。  霊山と聞くと、なんだかとんでもない霊が沢山いるのではないかと思ってしまう。 「…なんでプーはそんなとこに行きたいの?」  恐る恐る尋ねると、プーは 「着いたら、教えてやる」 とだけ言って、窓の外を見た。  恐らく、タクシーの運転手さんに聞かれたくない話なのだろう。  やがてタクシーが目的地に着くと、プーは辺りを見回すようにして、山道を歩き始めた。  そして、歩きがてら 「この先に、墓があるんだ」 と言う。 「お墓…?誰の?」 「名前は分からない」  ぽつりと彼は、そう言った。  名前も分からない人のお墓。  一体なんだろうと思っていたが、やがて片隅にひっそりとした墓地が見えて来た。  いくつもの墓石が、肩を寄せ合うようにして佇んでいる。 「ここだ」  プーはそう言って、草むらの中に足を踏み入れた。  あたし達以外にも、何組かお参りに来たらしい人たちが、ちらほらと墓地を歩いている。  蝉の声がいくつも重なり、夏の暑さと湿度で成長した雑草が、膝丈まで生えていた。
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