山形・最終日

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 怒りの矛先を向けられた、力のない顛限院。  自分たちが飢えているのは、戦争が悪いと言う考えが、当時の村人たちにはなかったのだろう。 「飢餓から救え」 と言う無理難題に、顛限院の二代目当主が応えられるわけがない。 「それで、俺のひいひいじーさんは、即身仏になれって言われたんだ」  プーがそう言った時、あたしは不思議に思った。 「でも、あの村では仏教じゃなくて、陰陽道を信仰してるんでしょ?なんで即身仏になんか…」  あたしが尋ねると、プーはこう答えた。 「自分が苦しいのは、差別のせいだって思ってたんだよ。差別をする奴らが飢えてるから、この村は襲われて、ますます苦しくなる」  それは分からないでもない。  しかし、だからと言って、陰陽道の人々が 「即身仏になれば、救われる」 などと考えたのか、あたしには理解出来ない。  すると、プーは退廃的な笑みを浮かべ、こう言った。 「その即身仏を、差別をしてくる人間たちに差し出そうとしたんだ」 「…え?」 「それで飢えからも救われ、差別も止まると、本気で信じてた」  その言葉に、真夏だと言うのに、あたしは寒気すら感じた。  差別や飢餓の苦しみの余り、助けを求めて 「即身仏になれ」 と言った村人たちに、悪意はなかったのだろう。  それで助かるのだと、本気で信じていたのだ。 「断れなかったの…?」  あたしが掠れた声で尋ねると、プーは少し考え 「断った…と思う」 と答えた。  どういうことかと思ったら 「当時の記録が、顛限院にあるにはある」 と言う。  その記録によれば 「喜んで即身仏になることを了承し、静かに山籠もりの修業に身を投じた」 と残っているらしい。  しかし、プーは 「記録が作り変えられてるんだ」 と言った。
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